2011年12月17日

ナニワ・モンスター

海堂尊 作
新潮社
2011年発行

毎度おなじみ海堂さんの作品。
登場人物はこれまでに散々存在感を示してきた人物から、名前が少し出た程度の人物まで多数再登場してきましたが、始まりはたぶん初めてな人物からだと思います。

今作も全体的には面白い話でした。
話としてはある程度までは纏められているし、おなじみの「続く」状態で終了となっているので、流れ的にはそこまで破綻している印象はありません。
ですが、始まりと終わりの視点となる人物が異なっている上に、その最初に視点になった彼らについて最後に軽く触れられているだけなので、つい「え? 彼らはその後どうしたの?」…と思ってしまいます。
そのため、纏まりがあるようで無いという印象を受けてしまうのが残念でした。

今回の作品はラクダのインフルエンザが一つのキーワードとなってきますが、この一連の動きは実際にあった新型インフルエンザの騒ぎを思い起こさせます。
村雨知事の存在なども、実在の人物を思い起こさせるような感じですし…。
こうも現実にリンクするような内容が多くなると、このシリーズはちゃんと終わるのだろうか?…と思ってしまいます。
それは少し前より感じているのですが、現状を変えるためには社会の仕組みを変えなければいけないといった趣旨の話になっているので、状況がリアルに感じられるほどにそう考えてしまう部分があります。
どんな決着をつけるつもりなのだろう…と。

時間軸から考えると、こちらの作品はアリアドネの対となる作品と考えていいのでしょうか?
はっきりと描写されているわけではないのですが、他の話で出てきたシーンにさりげなく重なってきたりするあたりは、さすがだなと思わされます。
以前の作品でちょっと名前が出てくるだけだった人物が今回のように中心人物として出てくる事もよくあるので、いったいどれだけの伏線を仕込んでいるのだろうかと気になるところ。
ただ、登場人物が多かったり、時間軸が前後していたりとして、頭の中が混乱してきているので、そろそろ収束させてほしいな…と思う部分があったりも…。
せめて、纏め本のようなものが出てきてくれると嬉しいのですが、また出ないかなぁ…。

2011年10月15日

はやぶさ君の冒険日誌


小野瀬直美 作
朝日新聞社
2011年

2010年の帰還時の映像が印象深い、小惑星探査機「はやぶさ」
そのはやぶさのPR用に作られたパンフレットを大幅加筆した上で書籍化されたもののようです。

昨年の帰還前後に沢山のサイトやテレビ等ではやぶさの解説がされましたが、私が目にしてきたのはほとんどがはやぶさに携わったスタッフの動きを通じてのドキュメンタリーでした。
…が、こちらの作品は「はやぶさ」視点で語られています。

JAXA(…と一括りにしていいのかは迷いますが)の面白いところは、探査機を擬人化しているところ。
Twitter等のアカウントでは各探査機が話すというスタイルなのですが、そのノリで描かれたドキュメンタリーと言えばいいのでしょうか?
探査機が意思を持っているというスタイルが受け入れられる方であれば、とっつきやすいのではないかと思います。

表紙の感じから小学生向けとも取れるのですが、内容的にはもう少し上の年齢層向けかなという感じがします。
もちろん、大人が読んでも楽しめるものだと思います。
イラストは表紙から受ける印象ほどは多くないですが、はやぶさくんの語る7年間の様子は、先のような一般的なドキュメンタリーとはまた違った感じで楽しめると思います。

あえて少年のようなキャラクター付けをしたのは正解だったのだろうなぁ…と、個人的には思います。
これがあったからこそ、帰還時にあそこまで盛り上がったのでは?と思っているぐらいです。
最後が最後なので、キャラクター化したことで哀しさも少々追加されてしまったような印象はありますが…。

2011年10月14日

ブレイズメス1990

海堂尊 作
講談社
2010年発行

ブラックペアンの続編と言っていいのでしょうか?
ブラックペアンから2年後の物語です。

舞台はお馴染み東城医大。
ですが、物語は海外から始まります。
そして、主人公の世良をはじめとして、登場人物のほとんどはこれまでに読んできた作品に登場していますが、今作もまた個性の強い人物が新たに登場しています。
病院長が海外から呼び寄せた天城という医師は、その性格や、やり方で、世良を振り回します。
そんな天城の存在は後々の世良にいろいろと影響を与えたのかな…と想像するには十分な内容だったと思います。

一通り読み終わった印象としては、この桜宮サーガの序章といった感じでしょうか?
ブラックペアンを読んだ時には、まだ愚痴外来シリーズの過去の話をちょっと語られている…といった印象だったような気がするのですが、今回の作品は、単に過去にあった事を少し書いているという感じは受けませんでした。
むしろ、今につながる大切な事を語りはじめたかのような印象を受けました。

これまでに読んだ作品の中では、時間軸的にはこれが最初の方の話だと思うのですが、読む順番はやはり愚痴外来シリーズからをおすすめしたいところ。
後の時代の話を読んでからの方が、その差異をいろいろと想像して楽しめる気がします。

この作品内では、天城以外にも、今後に関わってきそうな人物がちらほらと見受けられるので、更にいろいろと絡んでくるのだろうと想像しています。
時間軸や視点が違うさまざまな所から一つのところに集約していくような感覚は、もはやこの方の作品の醍醐味なのかも?と感じるようになってきました。
…が、いい加減に自分の頭の中を整理しないと厳しくなってきているのも事実。
せめて伝説だけでも読みなおした方がいいかも…と思う今日この頃です。

2011年06月24日

8分音符のプレリュード

松本祐子 作
小峰書店
2008年発行

久しぶりに児童書らしい児童書を読んだな…という感じがします。

主人公は中学2年生の女の子。
「真面目ちゃん」と呼ばれそうな性格の果南は、それ故に一部からはよく思われていない状況ではあるものの、それなりの学生生活を送っています。
ところが、中途半端な時期に現れた転入生・透子の存在がきっかけで変化が訪れ…という感じに展開していきます。

この作者さんの作品は以前にも読みましたが、今回の作品も読みやすい文体の作品だったと思います。
話の筋としては取り立てて珍しいという印象を受けるような展開はありませんでしたが、却ってこれが児童書向きの展開のさせ方なのかもな…と思ったりも。
この話の鍵となる透子の基本設定を除けば、果南の体験した事は、現実に学生時代に体験する可能性のあった出来事のような気がするのですが、そういったあたりから、よりリアルな感じを受けます。
大人になった今に読んでいるからこそ果南の心の動きは子どもっぽいと感じてしまいますが、小中学生あたりが読むと結構感情移入できるのでは?とも思います。
また、この物語の結末をどう捉えるかも、その年代の頃に自分が置かれていた立場によって変わってくるのかもしれません。

ちなみに、個人的に好みだったのは、シーナでしょうか。
割合いい位置にいる彼のことは、読み進めるうちにいつの間にか応援していました。
展開が展開なだけに、彼の存在が登場回数以上に大きいような気がします。

2011年06月22日

モルフェウスの領域

海堂尊 作
角川書店
2010年発行

前回に引き続き、海堂さんの作品です。
今回は田口・白鳥シリーズとは違う作品ですが、前シリーズのナイチンゲールに登場したアツシの存在が大きかったので、ナイチンゲールの続編のような印象を受けました。

世界初のコールドスリープ技術が開発され、再発した病気の新たな治療方法が出来ることに希望をつないで、最長と定められた5年間の眠りに付いたアツシ。
その睡眠中のアツシの生命維持管理を担当する人物が今回の作品の主人公です。
主人公の涼子はそのアツシをモルフェウスと呼称し、眠り続ける彼をずっと見守ってきたが、いよいよ彼が目覚める時が近づいてきて…。
…といったところから話が始まります。

先に書いたアツシ以外にも、すでに他シリーズでおなじみとなった人物が登場してきて、やはり桜宮サーガのうちの一つなんだなと感じさせます。
また、今回も主人公以上に印象強い登場人物がいたため、途中から主人公は誰?と思ってしまったりもしました。

全体的に見て、次の大きな話?のつなぎなのだろうと感じさせます。
アツシはすでに別の作品でもう少し先の時間軸での話に登場しているということもありますし、何よりこの作品の終わりかたからして、これだけでは終わらないのだろうなと予想させます。
前回読んだアリアドネの時もそうでしたが、今回は特に読後にすっきりしない感じがあり、これでまたこの世界観が広がるのか…と思うと、逆に疲れすら覚えるような気がしてきました。
世界観が作りこまれていくのは楽しいのですが、やはり、出版社が別で、なおかつ時間軸もばらばらというのは、追いかけるのが辛いです。
幸いなのは、発行ペースが速い事かな…と。

ところで、これまでに読んできた作品を振り返ってふと思ったのですが、どうやら私は海堂さんの女性視点で書かれた話が苦手なようです。
なんでだろうなぁ…。